「外からの目」で見えてくるもの ~『知里幸恵物語 アイヌの「物語」を命がけで伝えた人』その2
アイヌ関連のブログ記事を続けています。
前回に引き続き、今回も、以下の本の読書メモの続きです。
『知里幸恵物語 アイヌの「物語」を命がけで伝えた人』
(PHP心のノンフィクション:小学校高学年・中学生向け)
(金治直美、PHP研究所、2016、税別1400円)
本書の主人公である知里幸恵(ちりゆきえ)さんは、アイヌの口承文学を後世に伝える『アイヌ神謡集』の著者です。
『アイヌ神謡集』については、以下の過去記事でふれています。
オーディオブックなどへのリンクも掲載していますので、ぜひお読みください。
▼「文字」という文化で失ったものがある(『ハルコロ』その1)
『知里幸恵物語』では、『アイヌ神謡集』の序文を幸恵さんが書かれているシーンにおいて、その胸中を次のように描写されています。
・そうよ、わたしたちの祖先は、かつて自由に、野山をかけ海に川に舟を走らせ、のびのびと暮らしていたというのに。
なぜ「ほろびゆく民族」にされなければならないの?
たくさんの美しいことば、たくさんのおもしろい物語まで失われなくてはならないの?
せめて、この本の中で生き続けてほしい――。
(『知里幸恵物語』p117より)
知里幸恵さんの、痛切な、切なる願いが伝わってくる文章です。
幸恵さんは東京に出てこられて、ほんの少しのあいだ、東京見物をされたこともあります。
そのとき、幸恵さんは「東京はなんてせわしないところかしら」と思われていたそうです。
(本書p126)
僕たちは、今の社会が当たり前のものであり、それ以外の社会を知らないところがあります。
こんなふうに「外からの目」で見たとき、自分たちの社会のことを、客観的に冷静に見返すことができ、社会のあり方を問い直すことも、できるようになるかもしれません。
社会のあり方を問い直すためにも、こういった書籍にふれていただくことを、おすすめします。
それをせずして、多様性を尊重する社会、多文化共生の社会はつくれないと思います。
▼この冬読んだ、アイヌに関する本4冊
(2024/01/29の日記)
▼過去に学べ ~万博が抱える黒歴史「人間動物園」(東京新聞)
(2024/01/28の日記)
▼「文字」という文化で失ったものがある(『ハルコロ』その1)
▼「文字」という文化で失ったものがある2(『ハルコロ』その2)