吉間慎一郎「社会変革のジレンマ ―伴走者と当事者の相互変容からコミュニティの相互変容へ―」

今日は、インクルーシブ関連の記事です。スマイル
昨日は、​東京大学インクルーシブ教育定例研究会によるオンラインセミナー​でした。
そのときのチャットで、興味深い論文が紹介されていたので、ご紹介します。
▼「社会変革のジレンマ ―伴走者と当事者の相互変容からコミュニティの相互変容へ―」
(吉間慎一郎:『更生支援における「協働モデル」の実現に向けた試論』著者)

インクルーシブな社会に変えていくのは、もちろんめざすところではあるのですが、そのみちすじについては、はっきりとは見えていませんでした。
こちらの論文は障害児者に関するものではありませんが、インクルーシブ教育やインクルーシブ社会につながるものを非常に感じます。
PDFファイルにはEdgeでカラーマーカーを引くことができます。
2色に色分けしながら、いくつかの部分にラインを引きながら読みました。
冒頭の<要旨>で僕がラインを引いたところを引用します。


主流文化への同化としての社会的包摂は,それと同時に主流文化に適合できない者の排除をもたらす。
 したがって,支援者が,排他的な社会の状態を放置したまま主流文化への同一化によって社会的包摂を達成しようとしても,ますます当事者は社会からの排除を味わうことになる。
 このような支援におけるジレンマを乗り越えるためには,包摂する側と包摂される側という区別をやめ,相互変容的な社会の構築に取り組む必要がある。

(J A P A N E S E  J O U R N A L  O F S O C IO L O G IC A L  C R IM IN O L O G Y、 N o .4 4、 2 0 1 9、p46)


「インクルーシブ」という言葉やその訳語である「包摂」に対する違和感を口にされる方がいらっしゃいます。その危惧や懸念は、ここで引用した要旨に表れているのかな、という気がします。
そこで、吉間先生は、「協働モデル」を提唱されています。
その内容に、僕も、強く賛同します。
これは、覚えておきたいと思ったので、このブログでも書かせていただきました。びっくり
​協働モデル​」の定義は、以下のようなものです。


​​​伴走者と当事者とのゆるやかな関係性を基礎として,互いの無力さや弱さを受け入れて自分から変わる
という実践を第三者を巻き込んで行っていく相互変容過程である
​​​
(吉間2017: 100)
・当事者を変えようとするのではなく,当事者の本音に耳を傾け,自ら変わろうとすることで,両者のコミュニケーション過程が相互に影響を与えあう関係性へと導き,当事者も伴走者もより良い人生を目指していくモデルである。

(J A P A N E S E  J O U R N A L  O F S O C IO L O G IC A L  C R IM IN O L O G Y、 N o .4 4、 2 0 1 9、p47)


「相手だけを変えよう」とするのは、特に教育の世界では非常によく起こりうることです。
大人が、子どもを、指導し、変えようとする。
しかし、上の協働モデルでは、互いに変わることが提唱されています。
「わたしが正しい。あなたが変われ」と言うだけでは、変わらないのです。
これは、かなり本質的な部分を突いている気がしました。
また、p50における次の箇所にも、僕は注目しました。


​​​・協働モデルは,どこでも普遍的に成り立つ「正解」は基本的にあり得ないという立場に立ち,その場その場で成り立つ「成解」を生み出そうとしている​​​
(J A P A N E S E  J O U R N A L  O F S O C IO L O G IC A L  C R IM IN O L O G Y、 N o .4 4、 2 0 1 9、p50)


これも、教育現場が非常によく陥りがちな「正解主義」へのアンチテーゼとして読みました。
「成解」というのは吉間先生の造語のようですが、「なるほど。言い得て妙だなあ」と思いました。
正解が最初からあるのではなく、関係性の中で見つけていく。
こういう考え方をとれば、「教える人」←→「教えられる人」、「正す人」←→「正される人」、「支援する人」←→「支援される人」という2項対立的な図式は、消えてなくなりますね。
たとえるなら、円環的な図式になると思います。
こういった意識でひとりひとりがとりくめば、今まで対立的であったものを、互恵的な好循環に移行できるかもしれないと思いました。ぽっ
最後に、p58からも引用して、終わります。


・自分が安心するために相手を変えるのではなく,
相手に安心してもらうために​自分から変わる​
(J A P A N E S E  J O U R N A L  O F S O C IO L O G IC A L  C R IM IN O L O G Y、 N o .4 4、 2 0 1 9、p58)


今まで漠然と思っていたことがこんなふうに論文としてまとめられていたことに感動しました。
教育論文ではないですが、「教育」の世界でも、じゅうぶん、同じことが言えると思います。


『更生支援における「協働モデル」の実現に向けた試論』
[ 吉間慎一郎 ]


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