アンデシュ・ハンセン『運動脳』その2 ~ADHDの投薬への警告
『運動脳』の読書メモ、第2回です。
(第1回は、こちら。)
『運動脳』
(アンデシュ・ハンセン、サンマーク出版、2022、税別1500円)
今回は、第3章
「集中力」を取り戻せ!
の章を、紹介します。
アンデシュ・ハンセン『運動脳』
2(今回の範囲は、第3章:p113からp162まで)
(・太字部分は、本の引用。
顔マークのあとの緑文字は僕の個人的コメントです。)
・2000年前後に『タイム』誌は、あまりにも多くの子どもたちがADHDの投薬を受けていることに警告を発し、「子どもたちを薬漬けにしていいのか?」という疑問を投げかけて、おおいに議論を呼んだ。
(p89より)
・薬に頼らずにドーパミンの分泌量を増やす方法はないのだろうか。
ある。
そう、身体を動かすことだ。
(p138より)
ADHDについては一応いろいろと勉強してきましたが、投薬治療の是非については、なかなか悩ましいところです。
基本的にはクスリを飲んでなんとかするというのは、避けれるものなら避けた方がいいと思っています。
ただ、状況により一概に言えないところはあるので、一時的に試してはみるものの、すぐにやめれるようにしておくことや、周りの大人が投薬の副作用に気づきやすいように気をつけておくことは必要だと思っています。
僕がクラス担任から相談を受けたときには、「まずは、環境調整ですね」とお伝えすることが多いです。
もちろん、医療との連携を否定するものではありませんが。
実は、自分自身もADHDのことを初めて知ったときに、「自分もそうかも」と思いました。
そして、「クスリを飲んでよくなるなら、試してみたい」と思っていました。
魔法のクスリのような気がして、それに過度に期待したり、依存したりしてしまうのです。
ふりかえってみると、それはやはり問題であったと思っています。
ところが、この本では、なんとクスリよりも運動でADHDによる困難さも改善するということが、具体的に科学的に証明されているのです。
これは、ビックリです。
具体的な事例は、たとえばp145などを参照してもらえばと思います。
「息が上がり、心拍数を増やすことを目安にした遊び」により、「3分の2を超える子どもに集中力の改善」、「『行動の抑制』と呼ばれる力が改善」といったことが報告されています。
(黒地部分はp145より)
p147においては、「わずか5分ほど身体を活発に動かすだけでも子どもの集中力が改善され、ADHDの症状も緩和される」と書かれています。
僕たち「教育」に携わる者にとっては、かなり役立つ情報であると思います。
「ADHD」と診断されている子どもたちが増えていますが、その背景には、子どもがあまり運動しなくなったということも、あるのかもしれません。
「クスリに頼りたくないけど、困っているんだ」という多くの人にとって、有益な情報ではないかと思います。
本書にも書かれていますが、クスリの効用を謳ったほうが製薬会社が儲かるので、そのことばかり喧伝されているということは、気をつけておくべきことです。
運動はタダでできて儲けにつながらないから、服薬以上の効果が実際にあったとしても、資本主義社会の中でその効果はどんどん忘れ去られていってしまうようです。
本書を鵜呑みにするわけではありませんが、「ADHD→クスリで改善」といったことしか頭になかった人は、バランスをとるためにも、本書を読んでおくといいと思います。
・科学の研究は、本当に効果のある「精神を集中するためのギア」はサプリメントでも、脳トレ用のアプリでもなく、身体を動かすことだという事実を明らかにした。
(p159より)
ここもまた、驚いたところです。
僕が「効果があるだろう」と思っていた「脳トレ用のアプリ」も、本書では否定されているのです。
アンデシュ・ハンセンさんは精神科医。
その主張は、もちろん学会などにも発表しないといけませんので、根拠を明確に、しっかりとした調査・研究にもとづいてされています。
実はこのブログでも「脳トレ用のアプリ」に似たものはたくさん紹介してきたのですが、これからは、それにもあまり頼ることなく、「運動」を一番に考えた方がいいのかもしれません。
いかがですか。
やっぱり今回も、運動したくなりましたか?
長くなりましたので、第4章以降はまた明日以降に持ち越します。
第4章は
うつ・モチベーションの科学
という章タイトルです。
これまた、興味深い内容です。
では、また、次回!
(つづく)
▼【休校期間お役立ち情報】その13 登校後の運動を保障しよう(齋藤 孝『子どもの集中力を育てる』)
(2020/05/23の日記)