菊池省三対談集『「教育」を解き放つ』
菊池省三先生はもと北九州の小学校の先生。
NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取り上げられて以降、
「学級崩壊立て直し人」として「世界一受けたい授業」に出演されるなど、
全国的に有名な教育実践家の先生です。
そんな菊池先生が日本全国の著名な実践家と対談された際の内容をまとめた本があります。
(教育分野以外の実践家も含みます。)
『「教育」を解き放つ 菊池省三対談集』
(菊池省三、中村堂、2019,税別2000円)
▼菊池省三対談集『「教育」を解き放つ』出版社公式サイト
勤務市の市長も対談されていたので思わず買いました。
市長の意外な一面を知ることができたのはもちろんですが、他の方も素晴らしい方ばかりで、非常に勉強になりました。
日本中に素晴らしい方がたくさんいらっしゃるんだな、ということが分かりました。
菊池先生が対談された全国の「トップランナー」の方々は、以下の通りです。
出版社公式サイトの目次より、転載させていただきます。
(どの方の内容も素晴らしいのですが、太字の方のところだけ、後で引用させていただきます。)
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1 アクティブ・ラーニングのその先へ 鈴木寛
2 公教育だからこそできること 藻谷浩介
3 自らの力で未来を創り出す子ども育てる 南郷市兵
4 考え続ける人間を育てる 下村健一
5 子どもを育てるのではなく、人間を育てる 柴田愛子
6 「同調教育」から「一人ひとりを大切にする教育」へ 齋藤眞人
7 高知県いの町 菊池学園の取り組み 塩田始 & 藤岡孝雄
8 コミュニケーション力で地域を拓く 片山象三
9 「ほめあうまち なかつ(HOME-MACHI)」を創造する 奥塚正典
10 言葉を大切にした教育で人格の完成を 稲嶺進
11 ほめるとは価値を発見して伝えること 西村貴好
12 ほめ合うことで、人間関係豊かな組織・学級づくりを 太田肇
13 今、教師に求められる力とは 陰山英男
14 「主体的・対話的で深い学び」を創る教師の生き方 前田康裕
15 教師の元気が、子どもの元気をつくる 島田妙子
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最初にこうやってお名前を見たときに
僕がすでに存じあげていた方がわりといらっしゃる一方、
存じ上げなかった方も、かなりいらっしゃいました。
ところが、僕が知らなかっただけでした。
どなたも非常に考え方が先進的で知識が豊富です。
だから、対談が面白いし、ためになる!
たとえばどんなことが勉強になったのか、
少し具体的に引用させていただきます。
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菊池省三対談集『「教育」を解き放つ』
~鈴木寛~
・先生方は、もっともっと楽しんでほしいと思います。
・イリイチが提唱した「conviviality」
= みんなが生き生きと盛り上がっている、白熱している状態
= 「共愉」
・一斉指導では、凸凹をなくすことが課題でした。
これからは、凸凹が科学反応を起こしてたときの楽しさをエンジョイしてほしいと思います。
(p22)
鈴木寛(すずき・かん)先生は、元文部科学副大臣。
対談の中で現職教員へのエールを語られ、勇気と元気をいただきました。
イリイチの「コンヴィヴァリティ」は、神戸大学の津田英二先生が著書の中で言及されていたので知っていました。(▼「障害」の「社会モデル」を考える ~津田英二『物語としての発達/文化を介した教育』)鈴木先生の話の中にも登場してきたので、これからの社会では非常に大切な概念なんだな、と改めて思いました。
新しい言葉を知ることで、単に言葉を知るのではなく、世界が広がりますね。
鈴木先生が思い描いている教室は、僕も理想とするところです。
ただ、鈴木先生が過去形で語られている「凸凹をなくすことが課題でした」は、現在進行形でまだまだ多くの学校現場で見られます。
凸凹をなくすのではなく、凸凹を生かす!
そういった学校になれば、誰もが学びやすい、生活しやすい学校になると思いました。
~柴田愛子~
・子どもが怒っているときに、「どうして怒っているの」ではなく
「怒っているんだよね」と 感じていることに寄り添ってあげると、
「そうだよ!」と気持ちを開いてくれます。
子どもは、訳を知ってほしいのではなく、共感してほしいのです。
(p71)
柴田愛子先生は、もと幼稚園の先生。
子どもの立場に立った、非常に愛情深い方で、僕自身の子どもとの関わり方を反省させられました。
特に僕自身の子との関わりについては、思い当たることがありまくり。
「共感ができていなかったなあ・・・」と反省しきりです。
こうやって指摘されると、本当にそうだと思います。
~齋藤眞人~
・「指導」の前に「理解」が大切だと思ってやってきました。
・学級担任個人の責任を問うような学校ではありませんから、むしろ問題が表出したほうが、教員のためにもなるのです。
(p91)
齋藤眞人(さいとう・まさと)先生は、もと中学校の音楽の先生。
2006年から立花高等学校の校長先生をされています。
「一人ひとりの人格を尊重した自立支援教育」(p84)に取り組まれている方です。
この方の話を読んで、思わず「立花高等学校」を検索しました。
学校をあげて子どもたちを大切にする教育に取り組んでおられます。
担任個人の責任を問うような学校ではないというところから、大阪の大空小学校を思い起こしました。全教職員をあげて、子ども一人ひとりを理解し、支える教育。
「学校はこうでなくちゃ」と、理想を再確認させてもらいました。
ちなみに立花高等学校では、「生徒指導部」をなくして「生徒理解部」を作られたそうです。(p90)こういった具体的取組の裏側に、真摯で強い教員の思いが隠れているのですね。
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最後に、菊池先生の対談の中での言葉の中から。
最も印象に残った言葉を引用し、終わります。
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・「よしやるぞ」という強い気持ちがない限り、
どんな手法を使ったとしてもだめだろう
(p165)
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すべての実践の根底にあるもの。
理屈より、感情。
気持ちの部分。
気持ちが冷めないように、引き続き多くの実践家の方々から学ばせていただきたいと思います。
本書では新たな考えや実践、重要な示唆の数々に触れ、それぞれの方々をネットで検索してさらに詳しく調べることもしてみました。
教師が自ら学ぶ上で、この上ない参考書です。
学びたい先生方には、本当におすすめです。
ぜひ読んでみてください!
(関連する過去記事)
▼工藤勇一『学校の「当たり前」をやめた。』
(2021/07/06の日記)
▼「障害」の「社会モデル」を考える ~津田英二『物語としての発達/文化を介した教育』
(2020/12/09の日記)
▼東井義雄先生
(2018/08/09の日記)
▼佐々木正美『子どもへのまなざし』6~しからない、ゆずらない
(2009/10/24の日記)