「常に気をつけていないと、この落とし穴にはまる」 ~鴻上尚史『ロンドン・デイズ』その3

鴻上尚史さんの『ロンドン・デイズ』の読書メモを書いています。

ロンドン・デイズ』[ 鴻上尚史 ]
【リンクは電子書籍版】
本日が、第3回。
↓過去記事は、こちら。
▼その1 言葉の勉強は、7割が聞くことだ。
▼その2 くだらないことを思いっきりやることがおもしろい!
今日は、「先生」と呼ばれる立場にある人が、
共通してはまりそうになる「落とし穴」についてです。
本書はロンドンの学校への留学記ですので、実際の授業のことがいっぱい書かれています。
その中には、当然、「先生」のことも出てきます。
ユニークなレッスンをする「先生」がたくさん登場します。
ただ、鴻上尚史さんが「先生」のことを書かれている記述の中で、「これは、僕たちも、気をつけておかないといけないな」と思ったことがありました。
今回はそのことを書きます。
「アン」という先生について、書かれた部分です。
4章の途中、p207から、「みんな泣き出すアンの授業」という話が始まります。
「演技練習」の授業の中で、アンという先生は、授業の中で感情を出すように生徒たちに促します。
自分の感情を語るレッスンです。
#チェッキング・インというそうです。
たしかに、感情を出すことは、大切です。
ただ、その授業は、「なんだか、泣きながら自分の苦しいことを言わないといけないような雰囲気」だったそうです。(p208)
あくまでも、鴻上さんの捉え方ですが。
たくさんの生徒が、順に、悩みや苦しみを正直に吐露し、大泣きしました。
それについて、鴻上さんは冷静にこう書いています。


​​​・アンは、生徒が自分の前で涙を流すことが、快感なんじゃないかと、僕は感じていた。
 生徒が、自分の言葉によって、泣き、救われるという快感。
 僕は演出家として、そこに、アンの歪んだ欲望を感じたのだ。
 そして、それは、演出家として、一番、戒めないといけないことだと僕は思っていた。
 古今東西の権力者が語る権力の最高の快感は人間を操縦することだ。
演出家は、常に気をつけていないと、この落とし穴にはまるのだ。​​​

(同書p144より)


演出家として長年第一線でやってこられたからこその、洞察だと思いました。
人間というものの、危うさ。
権力者と呼ばれることが少しでもある立場にある者は、このことに自覚的にならなければならないと思いました。
ここで重要なのは、生徒が感情をあらわにし、自分の悩みを語って、みんなでシェアすること自体が、問題なのではないということです。
それは、もしかしたら、よいことなのかもしれません。
でも、それが「先生」によって、恣意的に行われることの危うさを、鴻上さんはおっしゃっているのだと思います。
そして、力量があって、生徒がその先生のことを尊敬し、信頼している場合であればあるほど、こういったことは、起こりやすいのです。
カリスマ教師ほど、起こりやすいのです。
生徒が「言うことを聞く」ということに、酔ってしまうのです。
僕は力量がない「先生」なので、こういうことはあまりないですが、
「カリスマ教師」に憧れたことは、何度もあります。
ただ、それは、鴻上さんが言うところの人間を操縦したいという欲望から来ていたものなのかもしれません。
僕は、「リーダーシップ」というものの、裏を垣間見たような気がしました。
決して、リーダーシップそれ自体を否定するものではありませんが、そういった危険性があるということです。
あなたは、どう思われますか?

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