「文字」という文化で失ったものがある2(『ハルコロ』その2)
前回の続きです。
未読の方は、まず上のリンク先をお読みください。
今回も、マンガ『ハルコロ』の第2巻より、
今回は、著者によるあとがきから、引用します。
『ハルコロ 』2
(漫画:石坂啓・原作:本多勝一・監修:萱野茂)
・自然との共生――、
いまでこそふつうに唱えられていますが、
その考え方が根づいたアイヌの人たちのくらしには
教わることが多いです。
私が驚かされるのは口承芸術の世界です。
・文字があるばかりに、
文字に頼ってしまうところが
たぶん私たちにはあります。
・絵本なしで、文字なしで、
アイヌのフチ(おばあちゃん)たちは
50も100も子どもたちにお話を聞かせていたというのです。
・4晩かかってもまだ終わらないユーカラを、
ひとりで演じることのできる名人。
どんなに胸踊る舞台だったことか、
でもそんな長大な物語が
いったいどうやって文字なしで伝承されてきたのか
(『ハルコロ』文庫版 第2巻 p281-282より)
「自然との共生」は、僕にとっても、大切なテーマです。
アイヌ文化が大切にしてきたものは、僕が大切にしてきたものと、かなり通じるところがあります。
そして、前回同様、ここでも、文字がないことで、かえってゆたかな口承芸術が成立していたことが、書かれています。
実は、「読み書き障害」のお子さんを担当していると、文字を読むのがとても苦手な代わりに、お話をすぐに覚えてしまうお子さんに、何度も出会います。
学校では、音読の宿題が出ます。
その音読を、教科書を見ずに、ほぼ正確に、読めるのです。
いちおう教科書はひらいているのですが、目線を見ると、まったく文字を目で追っていないのです。
おぼえているお話を、読んでいるように見せかけて、語っているのです。
これは、アイヌの人たちと同じような、才能かもしれません。
世の中には、いろんな才能があるのですね。
便利なものがあるから、それに頼って、人間自身が持っていた能力が、どんどん鈍っていってしまうということがあります。
上の文章ではそれは「文字」でしたが、皆さんはもうお気づきでしょう。
そうです。
現代社会の「スマホ」などの情報機器も、それにあたると言えるでしょう。
便利さを手に入れた代償が、あるかもしれない。
そんなことにも気づかせてくれる本でした。
漫画として非常に完成された作品です。
難しいことは何も考えずに、アイヌのくらしを追体験するようにして読むことができる作品です。
ぜひ、お読みください。
『ハルコロ』(1) (岩波現代文庫 文芸338)
[ 石坂 啓 ]
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