「自立」とは? そして、なぜ、学ぶのか? ~孫泰蔵『冒険の書 AI時代のアンラーニング』その7
『冒険の書 AI時代のアンラーニング』の読書メモのつづきを書きます。
いよいよ第5章。最終章です。
『冒険の書 AI時代のアンラーニング』
(孫 泰蔵、日経BP、2023/2、1760円)
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「教育」がめざしているものの一つとして、子どもたちの「自立」があります。
「自立」とは、何でしょうか。
本書の中では、「脳性麻痺がありながら医師としても活躍する日本の研究者」の、熊谷晋一郎(くまがやしんいちろう)さんの言葉が紹介されています。(p288)
・「自立するとは、
頼れる人を増やすことである」。
・一人暮らしをしてみて、友だちなど頼れる人を増やしていけば、自分はどうにでも生きていけるということがわかった
・「依存先を増やしていくこと」こそが、自立なのです。
これは障がいの有無にかかわらず、すべての人に通じる普遍的なことだ
(p288、熊谷晋一郎さんの言葉)
「自立」をこのようにとらえることは、とても必要なことだと思います。
人間は、誰もが、完ぺきではないのです。
教育は、何でもできる人間をめざして行うべきものではありません。
頼っていいのです。
そういったところをふまえると、昨年国連から勧告された「インクルーシブ教育」を日本で行うことの意義も、より一層感じられます。
様々な人に頼りながら生活することを学ぶことは、インクルーシブな場(=いろんな人がいる場)でしかできないのではないでしょうか。
いろんな人がいて、いいのです。
そして、できないことは、頼っていいのです。
もう一人、フレイレさんの「教育」観も、紹介したいと思います。
「ブラジルの教育者で社会活動家のパウロ・フレイレ」と紹介されていた方です。(p300)
・知識を一方的に教えこもうとすればするほど、彼らは自力で考えることをやめ、ただ言われたことに従うだけの人間になってしまう。
(p302)
・ただ知識を貯めるだけの教育を続けたら、彼らから「批判的意識」は失われ、自ら世界を変えることはできなくなっていく。
・私の意見などはいらない。
彼ら自身が考えることに意味があるんだよ
(p303)
(どちらのページからの引用も、フレイレさんの言葉)
人を頼ることも、学ぶことも、自分が考えて、みずから進んで行うことに意味があります。
本書は、受け身ではない、本当の「自立」した人間を教育するためのガイドを、提供してくれたように思います。
・フレイレ先生は、知識を詰めこむかわりに学びのサポート役に徹した
・「『なにを学ぶのか?』や『どのように学ぶか?』も大事だが、それよりも『なぜ学ぶのか?』が一番大事なんだ。(略)
自分たちが住んでいる世界を変えていくためには、自分たちの問題意識から生まれる対話こそ、いちばん必要なものだからね」
(p304。2つ目の「・」はフレイレさんの言葉)
What(なに)やHow(どのように)よりも、
まず、根本に、Why(なぜ)がある。
根本をおさえた、本質論が、ここにあります。
さあ、そろそろ、長かった冒険のエンディングに入っていきましょう。
・学校の古い意味を「自分が変わり続けるために行く場」という新しい意味へと変える
・「社会が自分を変えるための場」であった学校を
「自分が社会を変えるための場」へと意味を逆転させるイノベーション
(p328より)
あなたにも、めざすべき教育の先が、見えてきたでしょうか。
最後に、もういっちょ!
・教育とはなにか。
それは、大きな問いに立ち向かっていく姿を後に続く者に見せることではないか。
(p334)
著者である孫さんの学びの姿を追いながら、かなり長い道のりを歩いてきた気がします。
本気で追究する学びの姿を見せてくれた、孫さんに、感謝申し上げます。
自分も、学んでいる背中を見せられる人に、なりたいです。
長かった冒険の旅も、ひとまずこれで終わり。
あとは、本書を読んでなにかを感じた僕らの、「考え」や「行動」が、そのあとに続くのです。
自分を信じて、
ともに、がんばりましょう。
P.S.
本書の最後には、「世界に散らばる冒険の書たち」として、
本の中で具体的に紹介されたさまざまな名著が分かりやすく一覧になっています。
そこに掲載された本を手に取って、さらに学んでいくのもいいと思います。
『脱学校の社会』/イヴァン・イリイチ/小澤周三/東洋
『「わかり方」の探究』 [ 佐伯 胖 ]
『監獄の誕生〈新装版〉 監視と処罰』 [ ミシェル・フーコー ]
『人を動かす 文庫版』 [ デール・カーネギー ]
荘子(第1冊) 内篇 (岩波文庫) [ 金谷 治 ]
被抑圧者の教育学 50 周年記念版 [ パウロ・フレイレ ]
▼『学びの本質を解きほぐす』『冒険の書 AI時代のアンラーニング』
(2023/07/31の日記)