「大切なことは、なにか」 ~『イタリアのフルインクルーシブ教育』などから
カナダのインクルーシブ教育に関するオンライン学習会に、8月に2回参加しました。
奇しくも、昨年の8月には、イタリアのインクルーシブ教育に関するオンライン学習会にも、参加していました。
オンライン学習会の学習記録は、毎回パソコンの同じフォルダに入れるようにしています。
インクルーシブ教育の学習会用には、さらに専用フォルダを作っています。
そのフォルダの中身がどんどん増えているので、「インクルーシブ教育に関するオンライン学習会」は、どんどん充実してきているなあ、という思いを強くしています。
もちろん僕が参加していないものも、これ以外にたくさんあります。
今日、カナダのインクルーシブ教育に関する学習会で知ったことをふまえて、イタリアのインクルーシブ教育に関する本を、もう一度読み返してみました。
以下の本です。
『イタリアのフルインクルーシブ教育 障害児の学校を無くした教育の歴史・課題・理念』
(アントネッロ・ムーラ、大内紀彦 訳、大内進 監修、明石書店、2022、2700円)
本書を読めば、イタリアのフルインクルーシブ教育に関する経緯や現状を概観することができます。
「日本でフルインクルーシブ教育を行なうには、どうしたらいいのか?」ということのヒントも、得られると思います。
たとえば、学級定数です。
カナダでもイタリアでも、学級定数は日本より格段に少なく、さらに、教室内にいる大人の数が、多いです。
上掲書から引用します。
・イタリアでは、通常1学級の児童生徒定数は25名程度と規定されている。
障害がある子どもが在籍している場合は定数が20名に軽減される。
クラスを小規模化した上に、学級担任(カリキュラム担任)の他に支援教師(支援担任)等が加わり、チームで対応することでフルインクルーシブ教育を支えている。)
(p23-24より)
ちなみにカナダについては、8月11日の学習会での池野さんの報告によると、
「BC州の低学年は20人くらい、高学年は25人くらいだった。
制度的には30人以下と決められているが、州としてそれより小規模にすることが多い。」
とのことでした。
2014年発行の一木さんの本の中にも似たような記述が見られます。
(その本については8月7日のブログを参照ください。)
ただ、その本の中では2006年のデータとして学級定数はいちおうは35人であり、現状はそれより少なくしているという記述になっているので、もしかするとカナダはここ15年くらいの間に学級定数の上限人数を法的にさらに少なくしたのかもしれません。
どちらにしろ、日本は「40人学級」(!)ですから、いかに日本が多すぎるのかがわかります。
一応、小学校低学年の35人学級を段階的に上の学年にのばしていくらしいですが、それでも「インクルーシブ教育」を本気でやっていくなら、さらなる定数の引き下げが必要だと言えるでしょう。
そうすると「予算がない」という話になるのですが。
2日前のカナダの学習会では参加者がチャットで
「日本の教員1人あたり児童数は20人程度で国際的にはまんなか程度。
分離体制が通常学級の繁忙を生んでいる。」
という指摘をされていました。
これについては引き続き考えていきたいところであります。
また、日本が今後インクルーシブ教育に本気で取り組んでいこうとした場合、おそらくかなりの反対運動にあうだろうことも、イタリアやカナダの歴史が示唆しています。
『イタリアの~』によれば、
「障害のある生徒のクラスでの受け容れに、多くの教師が従わなかった」(p153)とあります。
カナダでも、転換期には同様のことが起こったようです。
ただ、そのときに重要なのは、「声なきものの声を聞く」ことです。
『イタリアのフルインクルーシブ教育』第8章「インクルージョンのプロセスに現れる側面」より、僕が大事だと思ったところを、一部分だけ引用します。
・「どれほど多くの年老いた障害者たちが、表現ができるなら示せるはずの人間性を欠いた自分の姿に向き合わされて、失意のどん底に突き落とされていることか」
(p269)
8月6日のカナダのインクルーシブ教育に関する学習会の最後に一木さんが、こんなことを言われていました。
「意見を言える人の意見だけを聞くことになってはいけない。
意見を言えない人の意見を聞かなくてはいけない。」
僕は、このことを、非常に大事なことだなあと思いながら聞いていました。
折しも、同僚の先生からのすすめで重松清さんの『青い鳥』という文庫本を読んでいた時期でした。
『青い鳥』には、うまく話せない、吃音の中学校の先生が出てきます。
でも、うまく話せないからこそ、その先生は大切なことしか話そうとしないし、どんなに聞きにくくても、生徒はその先生の話を聞こうと、耳をそばだてるのでした。
『青い鳥』 (新潮文庫 新潮文庫)
(重松 清)
(参考リンク)
▼【小説】「青い鳥/重松清」(新潮文庫)のあらすじと感想|村内先生の伝えたいこと
(りんとちゃーの花しらべ様)
▼重松清『青い鳥』~先生は大切なことしか言わない
(ブックス雨だれ「少年少女のためのブックリスト」様)
「大切なことは、なにか」について、読んでいた本や、参加した学習会での話ややりとりから、非常に考えさせられました。
「インクルーシブ教育」というのは障害のある子どもたちと一緒にやっていく教育だけをさすのではありません。
多様性を包摂し、すべての生きにくい子どもたちをその中で受容し、つながりあって共に生きていけるようにしていく教育なのだと、改めて思いました。