井出留美『捨てないパン屋の挑戦』


今年度の小学校高学年の読書感想文課題図書を読み終えました。
井出留美さんの『​捨てないパン屋の挑戦​​』。
実話に取材したノンフィクションです。

『捨てないパン屋の挑戦 しあわせのレシピ』 (SDGsノンフィクション 食品ロス)
(井出留美、あかね書房、2021、1300円)
環境問題に意識の高い田村さんのパン作りを取材したもの。
子どもたちだけでなく、大人にもぜひ勧めたい良書でした。
課題図書の選定にあたっては、「特定のお店を宣伝することになる」という批判もあったのではないかと思いますが、よくぞ課題図書に選定してもらえた、と思います。
課題図書になることで、広く日本中の家庭で読まれることになったことでしょう。
それは、単に実際のパン職人のことを知らせるということだけにとどまらず、「パン」というとても身近な食材について考えを深めさせるきっかけになったと思います。
たとえば、田村さんがパン屋の修行をする中で、「ショートニング」を批判的に書かれている場面があります。
世の中には「ショートニング」を使っているパンはたくさんありますので、そういった、世の中にたくさんあるパン屋さんの反発を招きそうです。
でも、それを怖れずに、そういった情報を知らせていく必要のある時代になった、と思います。
僕は、ここ10年くらいは「マーガリン」をとらないようにしています。
「ショートニング」も「マーガリン」も、「トランス脂肪酸」というやつが、含まれています。
この「トランス脂肪酸」が体に悪いということを知り、摂ることを控えることになったのです。
本書における「ショートニング」の描かれ方は、なかなか強烈です。
僕は、これを読んで、かなりショックを受けました。
ショートニング・ショッキングです。


・「これは人が口に入れていいものじゃない。
  これは食べものじゃなくて、プラスチックだ!」
 人の体温でとけないものは、からだのなかに入っても、とけることはないでしょう。
 「ずっと環境問題を解決する仕事をしたいと思ってきたのに、おれはこんなプラスチックみたいなものが入ったパンをつくって、お客さんに食べさせているんだ」
 そう思うと、田村さんはどうしようもなく情けなくなってきて、トイレにこもって泣きました。
(同書 p38-39より)


食材の是非については、ほかにもいろんな食材が議論に上ります。
もちろん、「これぐらいは摂取して問題ない」と考えている人もたくさんいます。
現代の情報社会の中で、大事なことは「うのみにしない」こと
本にこう書いてあるからと言って、それだけで判断せず、ショートニングを肯定している人の話も聞いたり、自分でもいろいろと調べてみて、「自分はどう思うか」を確かめていくことが大切です。
(参考リンク)
▼​『ショートニング』って何?体に悪いといわれる理由とは?
 (「オリーブオイルをひとまわし」様、2021年8月10日記事
▼​ショートニングとは?本当に危険なの?
 (「いきぬき笑顔ごはん」様、2020年2月17日記事、2021年同日更新
田村さんの場合は、自分でやってみた結果、「ショートニングを使いたくない」と思ったわけですね。
さて、ショートニングなどを使ったパン作りとは対照的に、本書で肯定的に取り上げられているのは、モンゴルやフランスでの食文化や働き方です。
特に、モンゴルで羊をまるごといただくシーンは、圧巻でした。
食べることは、いのちをいただくこと。
それが、スーパーで食材を買ってきて調理して食べていることが多い日本社会では、とても見えにくくなっています。
いのちをいただいているという意識が低いことが、給食の残食が多いことにも、つながっています。
今までにも「いのちをいただく」というテーマの良書はたくさんありました。
ただ、今回の本の場合、予期せずそういうシーンが挿入されていたため、そういう内容を読もうと思っていなかった人に、不意打ちのようにしてそのことを考えさせる効果があったように思います。
パン作りの話を読んでいると、いきなりモンゴルでヒツジを食べる話が出てくるわけですからね。
具体的には、p54からの、ヒツジの解体のシーンです。
ここでは羊ですが、僕らが日頃からよく食べている、牛や豚、鶏も、同じように解体されて、僕らの元に運ばれているわけです。
やはり、そういうことを、見ないふり・知らないふりをして過ごすわけには、いかないと思っています。
モンゴルの人は、「もうそれほどながく生きられない、年をとったヒツジから食べ、仔ヒツジを食べてしまうようなことはしません」(P58)と書いてあるのを読んで、僕は、子羊を食べる気がしなくなってしまいました。
単純に「食べる人」の立場からだけ考えると、仔羊の肉は、柔らかくて、おいしいです。
でも、まだこれから長く生きられるはずの命、何年も羊毛を提供してくれる命が失われることを思うと、今度は、食べることを、躊躇してしまいます。
食べることは、生きること。
でも、何を食べて生きていくのかは、選ぶことができるのです。
子どもたちが大人になる前に、できればそういったことを知らせておきたいと思います。
「○○を食べるのはダメ」という「禁止」ではなく、「○○を食べる」ということの裏側に隠された、見えていない部分を想像させ、それでも食べるかどうかは、各人の判断に委ねたいです。
さてさて、ところで読書感想文というやつは、なかなかやっかいなもので、子どもたちは毎回、何をどう書いていいか頭を悩ませているようです。
ところが最近はYouTubeの中で、本の解説や、読書感想文の書き方の例なども、見つかったりします。
動画に慣れている今の子は、そういったもので学習する方がいいのかもしれませんね・・・。びっくり
僕は去年、「読むこと」が苦手な子の保護者の方に、「この本なら、作者本人が朗読している動画がYouTubeに上がっているので、読むことが苦手でも、書きやすいかもしれません」と、紹介したことがあります。
昔は、読むことでしか作品を理解することはできなかったのですが、今は、検索すればその本の情報を補完する映像があふれている時代です。びっくり。
今回の本について調べてみると、田村さんご本人が公式に出している動画も見つかりました。
実際のパン作りの映像を観ることもできましたよ。

↓本書の要諦にあたる「捨てないパン屋」の実際も、映像で観られました。
 朝日新聞デジタルの動画です。

蛇足ですが、本書で取り上げられた田村さんのパン屋は、今は新規注文を全く受け付けず、すでに注文された分だけを作って、休みもふんだんにとっているそうです。
僕の住んでいるところなど、田舎の方では、週に数日しか営業せず、自分がほんとうに作りたいパンだけをつくっている方が、何人かいらっしゃいます。
パン屋のあり方として、そういったパン屋さんが、少しずつ増えてきたのかもしれませんね。
田村さんのパンは新しく手に入らないのですが、なんと田村さんの弟子が兵庫県内におられて、調べてみるとその方のお店が、僕の住んでいる市内にありました。
そのパン屋さんも通常営業は今はしていないようなのですが、そちらのパンなら、もしかすると食べる機会があるかもしれません。ぜひ、食べてみたいと思います。
↓田村さんのパン屋さんや、お弟子さんについては、こちらの公式サイトを参照しました。
「ブーランジェリー・ドリアン」
 ​https://derien.jp/
田村さんのパン屋さんは広島にあるので、広島の飲食店だと、扱っているお店もわりとあるみたいです。
広島にはこのお盆休みの前半期間に、ほんとだったら旅行に行っていたはずなのですが、コロナで断念しました。
広島には機会を見つけて、ぜひ行ってみたいです。
↓本書のテーマに共通する、こちらの本も、おすすめ!

『いのちをいただく』 [ 内田美智子 ]

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です