すべての教科を芸術的に学ぶシュタイナー教育 ~『マンガでやさしくわかるシュタイナー教育』
前回・前々回と、鳥山敏子『賢治の学校』の読書メモを書きました。
鳥山敏子先生が「賢治の学校」として設立されたのが、
「東京賢治シュタイナー学校」でした。
賢治の思想と、シュタイナーの思想は、重なるところが多いようです。
「東京賢治シュタイナー学校」公式サイトの「賢治とシュタイナー」によると、
2人の共通点として、次のようなことが挙げられています。
・一人ひとりの人間が自分の中にある「本当の自分」を見つけ出し、自らの“天の才”を最大限に生かして生きていける
・人間形成における芸術の重要性
これだけでは分かりにくいので、今日はシュタイナー教育にかかわる本を読み返してみたいと思います。
マンガで描かれたシュタイナー教育についての入門書を取り上げます。
『マンガでやさしくわかるシュタイナー教育』
(井藤 元、日本能率協会マネジメントセンター、2019、税別1500円)
★出版社公式サイトに行っていただくと、試し読みができます!
試し読みの部分だけでも、基本的な部分がよく分かります。
ぜひ、見てみてください。
・ドイツで生まれ、オルタナティブ教育の代表格として知られるシュタイナー教育は、モンテッソーリ教育とならび、教育界では世界的に有名な教育実践です。
・教科書がなく テストもない、この一風変わった学校で、子どもたちは国語、算数、理科、社会……すべての科目を芸術的に学んでいます。
(p3より)
特に幼児教育ではかなり取り入れられているのだとか。
具体的にどうやって学ぶのか、気になりますよね?
マンガの中ではもちろん具体的な授業場面も描かれています。
たとえば、算数。
(マンガの中では「エポック授業」として紹介されています。)
日本の標準的な教え方は、「1+1=」とかですよね。
対応する答えが、ひとつしかない。
ところが本書で紹介されている教え方は、
リスさんがどんぐりを見つける、というお話の中で、絵と一緒に
「6個のどんぐりは、いくつといくつに分けられますか」
という問いがなされ、
「6=2+4」
「6=3+3」
などの式が示されていました。
(p46)
本書の最後の「エピローグ」でも、
・無限の可能性に目を向ける「逆向きの足し算」は、シュタイナー教育のあり方そのものを象徴する実践
(p210)
と書かれています。
右辺と左辺を逆にするだけで、いろんな可能性があることに子どもが気づけるなんて!
「こんな単純なことで!」と、魔法のように思いました。
この本を読むと、僕たちが普段よく使う言葉の使い方に関する気づきも、生まれました。
・「したいこと」と「せねばならないこと」が一致した状態のうちに、人間の「自由」は見いだされる
(p59より)
「しなくちゃいけないことが あるんだ」
は、名作「お手紙」の中の「かえるくん」のセリフですが、
僕は、普段からこの言葉を好んで使っています。
そうすると、妻から、「しなくちゃいけないと思うことはストレスになる」という指摘がありました。
僕は、これは、ちがうんだよなあ、と思うんです。
「いやいや、しなくちゃいけないことは、したいことなんだ」
と説明していました。
しなくちゃいけないことと、したいことが一致している状態が、幸せな状態だと認識していました。
「お手紙」の中の「かえるくん」も、そうですよね。
そのことが、本書の中にも説明として出てきたので、びっくりしました。
シュタイナーは、これこそが、「自由」だと考えていたのですね。
したいことをする自由が、しなくちゃいけないこと、たとえば仕事や勉強と一致する。
これこそが、理想というやつです。
いやいややるようなのは、勉強じゃない。
「勉強」という漢字の語源から言うと、そうかもしれないけれど、
学習ではない。
学ぶということの語源は、「まねぶ」から来ているそうです。
まねをしたいからまねるのであって、それは、自由なものであるはずです。
強制からは、学びは、生まれません。
・子どもたちはすべての教育を芸術的に学んでおり、あらゆる教科が芸術に満たされています。
・音楽は音楽の授業でだけ取り扱われるのではありません。
すべての教科の中に音楽性が満ちているのです。
・学びの集大成として、クラス全員参加の「卒業演劇」も行われます。
(p68より)
僕は以前、「音楽のような授業」が僕の理想だと書きました。
釣りキチ三平の作者が実際に受けた授業が、まさに「音楽のような授業」だったと。
▼「ミュージカルのような授業」 ~マンガ家矢口高雄さんの体験より
ほんとうに、今の授業というやつには、もっと音楽などの芸術の要素が必要な気がします。
本書ではこの後も、子どもの前に立つ教師の心構えや、環境についてなど、非常に気付かされることの多い指摘が続きます。
ただ、それをいちいち挙げていると、引用が多くなるので、それらを集約した言葉を引用しましょう。
・教師や大人にできるのは、子どもの「環境」として在ることだけです。
(p148より)
子どもの主体性を重視し、大人のあり方を戒める、見事な一文だと思います。
教師や大人が出すぎてしまうと、子どもの学びを奪うことになるのです。
宮澤賢治が生徒を連れてよく山や川に出かけたのも、生徒に「環境」を提供するという意味が大きかったと思います。
子どもの前に立つ教師の心構えを象徴することとして、1つだけ、印象的だったことを、最後に付け足します。
シュタイナー教育では、教科書を使いません。
では、国語の学習は、どうやっているのか?
なんと、「モチモチの木」などのお話を、教師は全文を覚えて、「素話」(すばなし)と言って、暗唱するのだそうです。
ううむ、シュタイナー教育、本気でやろうとすると、なかなか覚悟がいりそうです。
ただ、その理想としているところは、すごく分かります。
教えるということは、教科書を読んで聞かせてできるような、簡単なことではないのですね。